第12回 地震で壊れたエクスパンションジョイント

阪神大震災の後に、「今まで1度として同じ地震はなかった」と書いた学者がいました。
この度の熊本地震も、本震かと思った地震のあとに更に激しい本震があり、余震も激しく長く続くという例のないもので、被災地の人たちの心労はいかばかりかと推察されます。

第7回で書いたマンションのエクスパンションジョイントが熊本地震の前震で壊れたと報道されました。ネットによると本震でさらに崩壊、亀裂がひろがったとのことでした。
火事でエクスパンションジョイントが使えなくなる事態は想像していましたが、地震のことは考えてもいませんでした。

常盤9丁目の三菱地所レジデンスのマンションの場合は東棟には階段が二つとエレベータがありますが、エクスパンションジョイントによる渡り廊下で東棟とつながっている南棟には階段もエレベータもありません。
地震でエクスパンションジョイントが破壊されたら南棟の住民は避難ハッチを使うしかありません。死ぬ思いで一旦逃げることはできるかもしれませんが、地震が収まった後、建物は無事だったからと物を取りに部屋に入ろうとしても、渡り廊下が壊れていたら部屋への出入りはできません。渡り廊下が修復されて部屋に出入りできるまでには相当の時間がかかるでしょう。

エクスパンションジョイントでつながっているから複数の建物を一体とみて階段等の設置基準を適用する(例えば建物が二つあっても一体だから片方の建物へ階段を集中させてもよい)とか、階段の代替手段として避難ハッチがあるからいいという現在の行政や司法の見解は全く住民の安全を考えていないと言わざるをえません。熊本地震を反省材料として改めてもらいたいものです。(あ)

写真:熊本地震の前震で壊れたエクスパンションジョイントの新聞記事

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第11回 ネズミ退治

4年前になりますが、常盤9丁目に野村不動産がプラウドというマンションを建てた時、まわりはすさまじいネズミの集団におそわれました。その被害は少なくとも1,300m離れた家にまで及んだのです。それまではネズミなど10年に1回くらい現れるくらいであった家でも、ネズミが家中駆け回り、押入の中や、家具の中などに入り込み、糞をまき散らし、色々な物をかじるなど被害が出ました。プラウドマンションに近い家では10数匹のネズミを捕まえたそうです。ネズミの入る穴を業者に頼んでふさいだ家が2軒ありました。10万円かかったと言うことです。我が家も台所の勝手口の下の開いていたところを自分で塞ぎ、屋根の隙間を大工さんに鉄条網を詰めてもらいました。

プラウドが建つ前は広大なお屋敷で高い塀のなかには素敵な日本建築の建物とコンクリートの建物が垣間見えました。
「壊したらネズミの巣が五つもあったそう。ネズミが出るというのもマンションにする理由の一つだったんですって」と言う人がいました。とんでもないことです。ちゃんと退治してから壊してほしかったです。

このたびの三菱地所レジデンスのマンションの予定地には、プラウドのネズミの残党がいまだに出没する家が1軒と、あきらかにそこにもいると思われるアパートが1軒ありました。今度は迷惑をこおむりたくないと立ち退いた直後に1軒の家にはネズミホイホイと殺鼠剤を置かせてもらいました。のちに道路に1匹と隣地の庭に1匹ネズミの死骸があったので、薬が効いたのかもしれません。
三菱地所レジデンスのマンション予定地のまわりの家では、地上げされた住民が引越すあたりからネズミがまた頻繁に出るようになりました。
住環境を守る会としても解体前のネズミ駆除を三菱地所レジデンスに申し入れしました。

しかし時既に遅し。地上げされた家・アパートから住人が立ち退いて2ヶ月以上経っていて、解体業者が依頼したネズミ駆除業者によると、その時にはもうネズミはいないのだそうです。引越して3日以内でないと効き目がないそうです。
それでも2軒それぞれから1匹ずつ捕獲できました。元々ネズミが出ない4軒からは零でした。業者のやり方は粘着板を五つ並べその先に、餌となる殺鼠剤を三つプラスチックの小皿に盛りつけて置くというものでした。

業者によると、このネズミは2階にいたりしているので、ドブネズミではなくクマネズミとのこと。糞の形もクマネズミは丸ではなく細長いそうで、たしかにプラウドのネズミの糞は細長かったです。

解体前の家の駆除だけでは仕方がないので、解体業者から粘着板と薬をもらいすでにネズミが移って行った先の家に配置してもらいました。3匹捕獲した家がありました。

ネズミ除けに有効なのは猫を飼うことだそうですが、実際猫を飼っている家にはプラウドの時からネズミは現れませんでした。(あ)

写真 襖の端の黒ずんでいるところがクマネズミの出入りした跡。

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第10回 マンション購入の前に

 最近、富裕層へ相続税対策になるとか、若いサラリ-マンには資産形成になるなど多く聞かれる。マイナス金利ともなると拍車がかかるのではないか。
 こうした時一読をお勧めしたいのが、牧野智弘著「2020年マンション大崩壊」(文春新書780円+税)である。
 その本のカバーから引用する。
東京五輪を前にマンション価格は上昇中。だがその裏で管理費や修繕積立金の滞納、相続権の拡散など多くの問題がうまれつつある。空室急増でスラム化する大規模マンション、高齢化で多発する孤独死、中国人に牛耳られる理事会・・・・・全国600万戸時代を迎えたマンションに未来はあるのか。】
 最近の新聞や週刊誌によれば、業界では若年層が買いやすいように、3千万円代の物件を増産する傾向にあるという。マンション販売会社の巧妙な「セールストークに迷わされないよう、よく検討したいものである。(子猫一匹)
写真:『2020年マンション大崩壊』

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第9回 最新の消防

お祭りの時に、地震車に乗ったり、はしご車の運転席に座ることができる体験コーナーがありました。「はしご車は何階まで届くのですか」と聞いたら「階高にもよりますが、普通8階ですね」とのことでした。じゃあ高層マンションの場合はどうするんだろう、火事の時、助からないじゃないと思いました。

三菱地所レジデンスの14階マンションの説明会で、「こんなに細い道路では消防車が入らないのではないか」という質問が住民側から出ました。東棟は5.45m道路に面していますが、南棟の接している道路は2.73mしかありません。設計者は「少し離れた8.33m道路に消防車を停める。連結送水管を使い消火する」と回答しました。

後日消防署の方に聞いたら高いマンションの場合、今時は外から放水して消火することはなく、マンションに設置されている各階まで送水可能な連結送水管にポンプ車からホ-スをつないで送水し、消防士はホースをかついで階段を駆け上り、現場階でホースをつないで放水するんだそうです。せまい道路に消防車を停めると他の消防車が入れなくなるから、離れていても広い道路に消防車を停めると言っていました。

新聞の記事に、「2016年2月8日、所沢の31階建てマンションの15階で火事が発生したが、はしご車が届かないため連結送水管にホースをつないで現場階から放水しようとした。しかし間違えて連結送水管でなく地下への散水用送水口にホースをつないでしまった」とありました。

やはりマンションを買うなら、消防車が停められる位広い道路に面し、はしご車が届く8階以下の部屋にした方が安心と思うのですが。(あ)

写真:高層マンション15階の火事についての記事

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第8回 避難ハッチ

6階以上あるマンションでどう見ても階段が一つしかないものがあります。どうしてそんなことが許されるのだろう、階段が二つ必要と言う法律が出来る以前に建てたのだろうかと専門家に聞いたら、避難上有効なバルコニー  があれば良いとの返事でした。つまりバルコニーに避難ハッチがあれば良いと。

避難ハッチとは何か?ネットで検索してみたらバルコニーの床にある四角いステンレスの装置で、ステンレスの蓋を開けボタンを押すと金属のはしごがパタンパタンと下に降りていきます。その四角い穴からはしごで下のバルコニーに逃げられるというわけです。

12月19日の三菱地所レジデンスマンションの説明会で「地上40メートルのところで、お年寄りや小さい子どもが避難ばしごで降りられるだろうか。本当に命の危険がせまっている最後の最後に使うもので、やはり階段はマンション住民のためには必要だ」と発言した住民がいましたが、避難ばしごとは避難ハッチのことだったのだと専門家の話を聞いてはじめて分かりました。

高いマンションを見上げて避難ハッチを使うことを想像するだけでそんなこと怖くてできないと思います。それにマンションの真ん中辺から火が出た場合、それより上の階の人は上に逃げようとしても自分では避難ハッチで上に逃げることは出来ません。上の階の人がハッチを開けてはしごを下ろしてくれれば別ですが。

ネットには別の恐ろしいことが書いてありました。ベランダで煙草を吸っていると、上階の嫌煙者の人がハッチを開けて覗くのだそうです。

また蜘蛛男みたいに高い所が怖くない犯罪者には便利な装置になるかもしれません。

やはりマンションでは避難ハッチが要らないくらい階段が整備された部屋を選ぶべきでしょう。(あ)
写真:避難ハッチ

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第7回 階段のない棟

マンションの設計図には、東棟と南棟と2棟が描かれていました。東棟には階段二つとエレベータ1基があるのに、南棟には階段もエレベータもないのです。2棟の間は各階短い通路でつながっているだけです。この通路をエキスパンションジョイントと言うそうです。発音しにくいし、覚えにくいですね。日本語で言ってほしいです。
図から計算してみるとおよそ幅120センチ長さ80センチの通路です。もし通路のあたりで火事があったら南棟の人は逃げられなくなってしまいます。

第6回で書いたように、一つの建物には二つ階段が必要とあるのに南棟に階段が一つもないのが許されるのかと思って法律を調べてみました。
建築基準法施行令第一条に「一敷地 一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地を言う」とあり、「一の建築物」の定義がありません。

判例を調べてみました。
東京地方裁判所「建築確認処分取消請求事件」平成13年2月28日判決:「「一の建物」とは、外観上分離されておらず、また構造上も(中略)主要な構造物が一体として連結し」(中略)「エキスパンションジョイントで接合していることをもっては、認められない」としました。

しかし東京地方裁判所の平成19年9月27日の判決では:「社会通念に照らし、構造上、外観上及び機能上の各面を総合的に判断して、一体性があると認められる建築物は、「一の建築物」に当たると解するのが相当である」としました。
これにより現在はエキスパンションジョイントでつながれた建物は一棟と認識されるようになってしまいました。

あきらかに別の棟である建物でも1棟とみなされるようになり、業者にとって建築規制が少なくて済み、経済的に有利になりました。(い)

写真:エクスパンションジョイントの例

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第6回 階段は二つ

説明会に出ると住民の方が色んな角度から質問するので、大変勉強になります。

12月6日の説明会で、「階段が二つあるが、方向が違うのはいいと思う。住む人のことを考えるとこれでは近すぎるので、もう少し離した方がいいのでは」という発言がありました。図面を見ると確かに近すぎて二つある意味がないくらいです。設計担当者の回答は「スペースがそこしかとれなかった」でした。

家に帰って法律を調べてみました。下に貼り付けたように6階以上の住宅棟には通常二つの階段が必要なことが分かりました。それにしても法律の文章はなんと分かりにくいのでしょう。(い)

【2以上の階段の設置】

建築基準法施行令第120条
建築物の避難階以外の階においては、避難階又は地上に通ずる直通階段を居室の各部分からその1に至る歩行距離が次の数値以下となるように設けなければならない。
主要構造部が準耐火構造であるか又は不燃材料で造られている場合 50m

建築基準法施行令第121条
建築物の避難階以外の階が次のいずれかに該当する場合は、その階から避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設けなければならない。
6階以上の階でその階に居室を有するもの
避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設ける場合において、居室の各部分から各直通階段に至る通常の歩行経路のすべてに共通の重複区間があるときにおける当該重複区間の長さは、前条(120条)に規定する歩行距離の数値の1/2をこえてはならない。 ただし、居室の各部分から、当該重複区間を経由しないで、避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するものに避難することができる場合は、この限りでない。

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写真 階段が近くに二つあるマンションの例