第7回 階段のない棟

マンションの設計図には、東棟と南棟と2棟が描かれていました。東棟には階段二つとエレベータ1基があるのに、南棟には階段もエレベータもないのです。2棟の間は各階短い通路でつながっているだけです。この通路をエキスパンションジョイントと言うそうです。発音しにくいし、覚えにくいですね。日本語で言ってほしいです。
図から計算してみるとおよそ幅120センチ長さ80センチの通路です。もし通路のあたりで火事があったら南棟の人は逃げられなくなってしまいます。

第6回で書いたように、一つの建物には二つ階段が必要とあるのに南棟に階段が一つもないのが許されるのかと思って法律を調べてみました。
建築基準法施行令第一条に「一敷地 一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地を言う」とあり、「一の建築物」の定義がありません。

判例を調べてみました。
東京地方裁判所「建築確認処分取消請求事件」平成13年2月28日判決:「「一の建物」とは、外観上分離されておらず、また構造上も(中略)主要な構造物が一体として連結し」(中略)「エキスパンションジョイントで接合していることをもっては、認められない」としました。

しかし東京地方裁判所の平成19年9月27日の判決では:「社会通念に照らし、構造上、外観上及び機能上の各面を総合的に判断して、一体性があると認められる建築物は、「一の建築物」に当たると解するのが相当である」としました。
これにより現在はエキスパンションジョイントでつながれた建物は一棟と認識されるようになってしまいました。

あきらかに別の棟である建物でも1棟とみなされるようになり、業者にとって建築規制が少なくて済み、経済的に有利になりました。(い)

写真:エクスパンションジョイントの例

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